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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2671号 判決 1966年12月23日

控訴人 財団法人東京下落合クリスチァンサービス維持財団

右代表者理事長 藤井御舟

右訴訟代理人弁護士 飯山悦治

下飯坂常世

右下飯坂訴訟復代理人弁護士 広田寿徳

竹内洋

補助参加人 佐々木康太郎

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 竹内竹久

右訴訟復代理人弁護士 小口久夫

被控訴人 原泰一

右訴訟代理人弁護士 内藤文質

竹内誠

宮原守男

右宮原訴訟復代理人弁護士 山川洋一郎

田邨正義

大橋堅固

補助参加人 羽生慎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 内藤文質

主文

本件訴訟は昭和四〇年一〇月四日控訴人補助参加人佐々木光子のなした控訴取下及び同四一年七月六日控訴人のなしたこれに対する同意により終了した。

事実

≪省略≫

理由

まず控訴取下の効力の点について判断するのに、本件記録によれば昭和四〇年一〇月一五日当裁判所に対し、控訴人財団代表者理事糸川欽也名義の同日付控訴取下書が提出されていることが明らかである。よってまず右控訴取下が控訴人財団の適法な代表権限を有する者によってなされたものか否かについて判断する。本件記録並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち本件訴訟は被控訴人が控訴人財団に対し控訴人補助参加人三名が控訴人財団の理事の地位になく、被控訴人及び被控訴人補助参加人両名が右理事の地位にあることの確認を請求するものであったところ、債権者を被控訴人、債務者を控訴人財団及び控訴人補助参加人三名とする東京地方裁判所昭和三六年(ヨ)第二〇〇七号職務執行停止等仮処分申請事件において、昭和三六年二月二四日控訴人補助参加人三名の控訴人財団の理事ないし理事長としての職務執行を停止し、弁護士山根篤を理事兼理事長職務代行者に、同飯山悦治、同下飯坂常世を理事職務代行者に選任する旨の仮処分決定がなされた。そこで原審においては前記理事長職務代行者山根篤が控訴人財団を代表し、同人から委任を受けた弁護士飯山悦治、同下飯坂常世が訴訟代理人として本件訴訟を追行し、その後当審においても同様であった(右訴訟代理人らに対する委任状には、特別委任事項として「控訴提起並に控訴審における和解、取下の件」の記載がある)。以上の事実が認められ、また≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。すなわち控訴人財団の理事長職務代行者山根篤は昭和四〇年三、四月頃理事会の推薦に基づき、任期満了した控訴人財団の評議員の後任として、藤井御舟、糸川欽也、福田耕、平沢真二、及び飛島繁を、また新たに金沢章、佐々木朝男、萩尾茂、阿部桂子、若尾俊次、山田康太郎及び尾中勝也をいずれも控訴人財団の評議員に委嘱し、その承諾を得た。そうして右理事長職務代行者は同年六月一一日午後四時三〇分東京都千代田区丸ノ内二丁目丸ビル内精養軒において、「理事選任の件」を議案とする臨時評議員会を招集し、前記理事長及び理事職務代行者三名、評議員一二名中七名が出席し、評議員五名は他の評議員に表決を委任したため、控訴人財団寄附行為第二三条、第二一条により出席者とみなされたので、評議員会は適法に成立した。そうして右評議員会において藤井御舟、糸川欽也、佐々木朝男、金沢章、萩尾茂及び若尾俊次を理事に選任する旨全員一致をもって決議し、右六名はいずれも就任を承諾した。ついで直ちに理事全員出席のうえ理事会を開催し、全員一致をもって藤井御舟を理事長に、若尾俊次を理事長代理に選任したうえ、前記寄附行為第一四条の規定により評議員会の全員一致の承認を得た。以上の事実を認めることができる。

ところで≪証拠省略≫によれば、控訴人財団の寄附行為第一四条には、「理事長はこの法人を代表し会務を統理し、全ての会議の議長となる。」旨が同じく第一五条には、「理事は理事会を組織し会務を審議決定する。」旨がそれぞれ定められていることが認められる。従って前記理事の選任が有効であり、前掲控訴取下書が当裁判所に提出された当時糸川欽也が控訴人財団の理事の地位にあったとしても、同人は控訴人財団を代表すべき権限を有しなかったものというほかない。もちろん控訴人財団も法人である以上、その理事の権限には民法第五三条、第五四条の規定の適用があるから各自代表権を有し、これに加えた制限は善意の第三者に対抗できないこととなるのであるが、これはあくまで取引の安全等に対する配慮を必要とする実体法上の行為についてのことであって、訴訟手続の安定確実を期すべき訴訟行為については右第五四条の規定は適用がないものというべきである。以上に述べたところから明らかなように、控訴人財団を代表すべき権限を有しない糸川欽也のなした前記控訴取下はその効力を有しないというほかない。

次に控訴人補助参加人佐々木光子訴訟代理人竹内竹久より、昭和四〇年一〇月四日当裁判所に対し同日付の控訴取下書が提出されているので、右控訴取下の効力について判断する。本件記録によれば、本件訴訟の控訴審における経過は次のとおりであることが認められる。被控訴人の本訴請求の内容は前述のとおりであるが、これに対し原裁判所は原告である被控訴人勝訴の判決を言い渡した。そこで被告である控訴人財団の補助参加人である佐々木光子において本件控訴を提起したものである。なお原判決に対しては、同じく控訴人財団の補助参加人である佐々木康太郎及びその当時補助参加人の地位になかった山田金吾及び佐々木定三からも控訴が提起されたが(当裁判所昭和三七年(ネ)第二三九〇号事件)、右控訴事件は控訴人らのうち佐々木康太郎及び山田金吾は昭和三九年六月二七日控訴を取り下げ(当裁判所に提出された書面には訴を取り下げる旨の記載があるが、右はこれに添付された委任状の授権事項に「控訴取下の件」と記載されていることからみても、控訴を取り下げるとの誤記であることが明らかである。)、また佐々木定三は昭和三七年一一月二九日死亡し訴訟の性質上承継ということが考えられないので、結局終了するに至っている。

ところで一般に補助参加人が被参加人自身の提起した上訴を取り下げることができないのは当然であるが、本件におけるように補助参加人が上訴を提起した場合において補助参加人が単独でこれを取り下げたとしても、それだけでは上訴取下の効力を生じないと解すべきである。何故なら補助参加人は訴訟手続において被参加人とは別個の固有の地位を有し、原則として必要な一切の訴訟行為をなすことができるのであるが、一旦補助参加人が上訴を提起した以上被参加人自身が上訴を提起した場合と同様の効果を生じ、その後に被参加人ないし他の補助参加人が重ねて上訴を提起しても二重上訴として不適法となると解すべきである。従って被参加人としては補助参加人が上訴を提起した場合には、重ねて自己において上訴を提起するまでもないと考えるのが普通であって、このような場合補助参加人が自己の提起した上訴を単独で取り下げることができるとするのは、不当に被参加人の利益を害することとなる。この観点からするときは、補助参加人のなした右上訴取下は被参加人の同意がない限りその効力を生じないと解するのが相当である。

従って控訴人補助参加人佐々木光子のなした前記控訴取下は、それだけでは未だその効力を生じていないというべきである(なお前記昭和三七年(ネ)第二三九〇号事件において佐々木康太郎、山田金吾のなした控訴取下については、もともと右控訴は二重控訴ないし控訴権限のない者のなした控訴として不適法であったのであるから、このような場合には敗訴当事者である控訴人財団の同意を要せずしてこれを取り下げることができると解する。)。ところで右控訴人補助参加人佐々木光子のなした控訴取下については、昭和四一年七月六日午前一〇時の当審における本件第二一回口頭弁論期日において、控訴人財団訴訟代理人として弁護士下飯坂常世が右控訴取下に同意する旨陳述している。そうして同弁護士が控訴人財団の前記仮処分決定による理事長職務代行者である弁護士山根篤により控訴人財団の訴訟代理人に選任されたものであることは前述のとおりであるが、右仮処分申請事件については債権者である被控訴人の申請により昭和四〇年一〇月一四日仮処分決定の執行の取消決定がなされ、右取消決定がその頃関係人に送達されたことは、当裁判所にとり顕著な事実である。従ってこれにより前記理事長職務代行者山根篤の控訴人財団を代表すべき権限は、消滅に帰したものというべきである。しかしながらこのような場合においても、民事訴訟法第五八条、第八五条、第八六条の規定に照らすときは、右理事長職務代行者の委任した訴訟代理人の代理権は消滅しないと解すべきであるから、弁護士下飯坂常世の訴訟代理権は前記仮処分の執行取消によっては消滅せず、従って同弁護士はその後においても控訴人補助参加人佐々木光子のなした控訴取下に同意する権限を有したというべきである。

ところで下飯坂弁護士が控訴取下に同意した前記口頭弁論期日の前である昭和四一年六月二〇日に当裁判所に対し、控訴人財団理事長と称する萩尾茂より同弁護士を解任する旨の「解任届」と題する同月一八日付書面が提出されているので、右解任の効力について判断する。理事長職務代行者山根篤が後任評議員を委嘱し、その後臨時評議員会において選任された後任理事等が理事会において理事長に藤井御舟を選出したうえ評議員会の承認を得たことは前記認定のとおりであるが、右藤井御舟が適法に控訴人財団の理事長の地位に就いたとしても、その後同人が右地位を失い萩尾茂が右理事長の地位に就いたことを認めるに足りる証拠は存在しない。もっとも≪証拠省略≫には、昭和四一年二月一六日理事萩尾茂、同佐々木朝男の両名が出席し、理事会を開催して新評議員の推薦、評議員会の招集を議決し、即日開催された評議員会において、評議員として阿部桂子、萩尾茂、佐々木朝男、ジュリアス・フリーナ、柴田年世、山中薫、岡本武雄が出席し、尾中勝也、山田幸太郎、平沢真二、飛島繁欠席のまま、理事である糸川欽也、若尾俊次、藤井御舟、金沢章を解任し、後任理事は議長萩尾茂の指名に一任する旨議決したこと、右萩尾は理事として萩尾百合子、柴田年世、阿部桂子及び岡本武雄の四名を指名したこと、ついで直ちに開かれた理事会において理事長に萩尾茂、理事長代理に岡本武雄を選出し、評議員会の承認を得たこと、なお右理事会の際理事を解任された前記藤井ら四名は評議員をも解任されたこと等の記載がある。しかし仮りにそのような理事会ないし評議員会が開催された事実があるとしても、≪証拠省略≫によれば、控訴人財団の寄附行為第二〇条及び第二三条は、理事会及び評議員会は理事長が招集することと定めていることが認められるところ、当審における控訴人財団代表者藤井御舟の本人訊問の結果によれば、前記各理事会及び評議員会はいずれも藤井御舟の招集したものではないことが認められる。また理事萩尾茂、同佐々木朝雄両名が出席した前記理事会は、理事総数の過半数を定足数とする寄附行為第二〇条の規定にも違反することとなる。以上いずれの点からしても前記各理事会及び評議員会の開催及び決議が適法有効になされたことを認めるべき証拠は存在せず、従って萩尾茂が適法に控訴人財団の理事長の地位に就いたものとは到底認められない。従って同人のなした下飯坂弁護士に対する解任はその効力を生ずるいわれがない。

以上に述べた次第で、本件訴訟は控訴人補助参加人佐々木光子が昭和四〇年一〇月四日なした控訴取下及び控訴人が同四一年七月六日なしたこれに対する同意により終了したものというべきである。よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 満田文彦 裁判官 弓削孟 藤田耕三)

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